今回の内容
認証サーバーから受け取ったクレームに含まれる情報をログの情報として合わせて出力したいという要望があります。Serilogを利用してログにクレームの情報を出力する方法について見ていきます。
Serilogで常に特定の値をログに出力するには?
.NETで今や標準と言ってもよいロガーのSerilogには、NLogのMappedDiagnosticsLogicalContext
やlog4netのLogicalThreadContext
と同じように、特定のコンテキストの中で常に特定の値をプロパティーとしてログに出力するためのLogContext
クラスが存在します。
例えばSerilogの出力フォーマットをJsonFormatter
に設定したうえで次のようにログを出力すると、
using(LogContext.PushProperty("Prop1","ほげ"))using(LogContext.PushProperty("Prop2","ほげほげ")){Log.Information("ログだよー");}
usingのコンテキスト内であれば、出力されたログのProperties要素の中にPushPropertyしたProp1やProp2が常に出力されるようになります。
{"Timestamp":"2020-11-25T08:16:49.1342176+09:00","Level":"Information","MessageTemplate":"ログだよー","Properties":{"Prop2":"ほげほげ","Prop1":"ほげ","ActionId":"1e55d24a-bb44-479f-9a13-2233bae73eff","ActionName":"TraceContextSample.WebApp2.Controllers.HomeController.Index (TraceContextSample.WebApp2)","RequestId":"0HM4GPS20RBMN:00000001","RequestPath":"/","SpanId":"|353d86ac-4da39cde8fd02b90.","TraceId":"353d86ac-4da39cde8fd02b90","ParentId":""}}
クレーム情報をログに吐き出すには?
では、クレームの情報を出力するとしたらどのような方法があるでしょうか。良い、悪いは別として方法としては次の5つがぱっと思い浮かびます。1,2はべったり実装する方法なので特に詳しい説明は必要ないでしょう。修正の影響範囲が大きいのであまりお勧めはしません。
- 各コントローラーやページでPushPropertyする
- コントローラーのベースクラスでPushPropertyする
- アクションフィルター(orページフィルター)でLogContextにPushPropertyする
- ミドルウェアでLogContextにPushPropertyする(おすすめ)
- Enricherを作ってAddPropertyIfAbsentする(おすすめ)
今回は2,3,4について説明して行きます。
subクレームのマッピング
ASP.NETの認証ミドルウェアは、JWTに含まれるクレーム情報をHttpContextのクレーム情報に格納してくれます。ただし、subクレームなどの一部のクレーム情報はJWTハンドラーによって変換されるため、subクレームのまま利用したい場合はStartup時にClaimTypeのマッピングをクリアしておく必要があります。
publicclassStartup{publicvoidConfigureServices(IServiceCollectionservices){// ... 略 ...JwtSecurityTokenHandler.DefaultInboundClaimTypeMap.Clear();// ... 略 ...}}
アクションフィルター(orページフィルター)でLogContextにPushPropertyする
コントローラーに対するアクションフィルターやRazorPageに対するページフィルターを作成して、各コントローラーやページにフィルターを適用する方法です。一見コントローラーに属性を設定するだけで、実装を後から追加できるので嬉しいように見えますが、コントローラーやページの外で発生したログに関してはフィルターが適用されないため値が出力されないというデメリットがあります。
まずはアクションフィルターを作ります。現在のHTTPContextから認証済みユーザーの認証情報を抜き出し、subクレームの情報をLogContext
に追加しています。
publicclassClaimsLogFilter:ActionFilterAttribute{publicoverridevoidOnActionExecuting(ActionExecutingContextcontext){varuser=context.HttpContext.User;if(user.Identity.IsAuthenticated){varciamls=user.Identities.First().Claims;varuserId=ciamls.FirstOrDefault(c=>c.Type.ToLower()=="sub");if(userId!=null){LogContext.PushProperty("UserId",userId);}}}}
あとは、コントローラーか、アクションメソッドに属性を付けるだけですね。
publicclassHomeController:Controller{[Authorize][ClaimsLogFilter]publicasyncTask<IActionResult>Secret(){}}
場合によってStartup時にフィルターを追加して全コントローラーに適用しても良いですね。
publicclassStartup{/// ... 略 ...publicvoidConfigureServices(IServiceCollectionservices){/// ... 略 ...services.AddControllersWithViews(options=>{options.Filters.Add(typeof(ClaimsLogFilter));});/// ... 略 ...}}
参考
ミドルウェアでLogContextにPushPropertyする
ASP.NET Coreのミドルウェアを利用してリクエストのパイプラインの途中でLogContext
にコンテキストを追加する方法です。アクションフィルター同様HttpContext
から現在のユーザーに紐づくクレーム情報を取り出し、PushPropertyしています。
publicclassClaimsLoggingMiddleware{privatereadonlyRequestDelegate_next;publicClaimsLoggingMiddleware(RequestDelegatenext){_next=next;}publicasyncTaskInvoke(HttpContexthttpContext){varuser=httpContext.User;if(user.Identity.IsAuthenticated){varciamls=user.Identities.First().Claims;varuserId=ciamls.FirstOrDefault(c=>c.Type.ToLower()=="sub");if(userId!=null){using(LogContext.PushProperty("UserId",userId?.Value))await_next(httpContext);}}}}
重要なのはミドルウェアを追加するタイミングです。認証情報はAuthenticationMiddleware
によって設定されるので、UseAuthenticationメソッドが呼ばれた後にClaimsLoggingMiddleware
を組み込まないと値を取得することができません(常にnullになる)。
publicclassStartup{publicvoidConfigure(IApplicationBuilderapp,IWebHostEnvironmentenv){/// ... 略 ...app.UseAuthentication();app.UseAuthorization();app.UseMiddleware<ClaimsLoggingMiddleware>();/// ... 略 ...}}
参考
Enricherを作ってAddPropertyIfAbsentする
最後にSerilogの拡張機能であるEnricher(付与)を利用する方法です。少し複雑になりますが、ログを出力するという用途から考えるとこの方法が一番正しい気がします。ただ、現時点ではHttpContextを参照するようなEnricherを利用する場合は依存関係を解決するタイミングのせいで、Loggerの初期化を遅らせる必要があるというデメリットがあります。
まず、ILogEventEnricher
インターフェイスを実装して、ClaimsEnricher
クラスを作成します。アクションフィルターやミドルウェアと違いHttpContext
を引数にもらえないので、コンストラクタにIHttpContextAccessor
インターフェイスを受け取りDIしてもらいましょう。subクレームの参照方法は他の方法と変わらないですね。
publicclassClaimsEnricher:ILogEventEnricher{privatereadonlyIHttpContextAccessor_httpContextAccessor;publicClaimsEnricher(IHttpContextAccessorhttpContextAccessor){_httpContextAccessor=httpContextAccessor;}publicvoidEnrich(LogEventlogEvent,ILogEventPropertyFactorypropertyFactory){varuser=_httpContextAccessor.HttpContext?.User;if(user!=null&&user.Identity.IsAuthenticated){varciamls=user.Identities.First().Claims;varuserId=ciamls.FirstOrDefault(c=>c.Type.ToLower()=="sub");if(userId!=null){varuserIdProperty=propertyFactory.CreateProperty("UserId",userId);logEvent.AddPropertyIfAbsent(userIdProperty);}}}}
StartupではClaimsEnricher
とIHttpContextAccessor
の依存を設定します。
publicclassStartup{publicvoidConfigureServices(IServiceCollectionservices){// ... 略 ...services.AddTransient<ClaimsEnricher>();services.AddHttpContextAccessor();// ... 略 ...}}
プログラムのエントリーポイントでは、アプリケーションビルダーのUseSerilog初期化時に、Serilogの構成を行い、ConfigureServicesで設定したClaimsEnricher
をDIコンテナから取り出し適用します。残念ながらDIコンテナの初期化のタイミングの影響で、Main直後にロガーの設定ができないので、アプリケーション起動時のログは平文で出力されてしまいます。
publicclassProgram{publicstaticintMain(string[]args){//本来はここでロガーを初期化したい。//Log.Logger = new LoggerConfiguration()// .MinimumLevel.Information()// .Enrich.FromLogContext()// .WriteTo.Console(formatter: new JsonFormatter())// .CreateLogger();try{Log.Information("Starting host...");CreateHostBuilder(args).Build().Run();return0;}catch(Exceptionex){Log.Fatal(ex,"Host terminated unexpectedly.");return1;}finally{Log.CloseAndFlush();}}publicstaticIHostBuilderCreateHostBuilder(string[]args)=>Host.CreateDefaultBuilder(args).UseSerilog((context,services,configuration)=>configuration.MinimumLevel.Information().Enrich.FromLogContext().Enrich.With(services.GetService<ClaimsEnricher>()).WriteTo.Console(formatter:newJsonFormatter())).ConfigureWebHostDefaults(webBuilder=>{webBuilder.UseStartup<Startup>();});}
これに対応するために、Serilogの次?のバージョンでは、CreateBootstrapLoggerメソッドが追加され、Serilogの初期化を複数段階に分けて設定できるようになるらしいです。→ Bootstrap logging with Serilog + ASP.NET Core
参考
- Injecting services into Serilog filters, enrichers, and sinks
- Bootstrap logging with Serilog + ASP.NET Core
まとめ
いろいろ方法はありますが、ミドルウェアを利用するか、Enricherを設定する方法が良さそうですね。